鹿児島「5人の生産者」

鹿児島「5人の生産者」

「情熱牛」にかける私たちの「情熱」

奇跡とも言える和牛の最高峰、最上級の「情熱牛」。

育てているのが、鹿児島県阿久根市を中心とした、野崎満浩、柳田実義、八重尾均、石澤豊樹、山崎英二からなる5人の匠グループです。彼らは苦楽を共にする仲間であり、ライバルでもあり、時には助け合い、切磋琢磨しながらより良い牛を育てるために、研鑽を重ねています。

彼らの牛舎は清潔に保たれ、牛たちが健康でのびのびと過ごせるようにと環境にも最大の注意が払われています。育て方はそれぞれですが、グループの全員に言えるのは「牛が好き」ということ。そんな生産者らの思いに迫りました。

  • 野崎満浩

  • 柳田実義

  • 八重尾均

  • 石澤豊樹

  • 山崎英二

野崎畜産

繊細な牛の飼育環境に細心の配慮をしています

野崎 満浩さん

畜産業を始めて40数年になります。当時はただ牛を大きくして、出荷するシステムでした。しかしそれでは美味しい肉を作ることはできません。霜降りの入り具合や脂の質で、肉の美味しさは大きく変わります。良い牛を育てるには、当然ながら餌が重要です。そこで当時、畜産の先進地だった佐賀県に餌の配合を勉強しに行きました。そこで学んだことをベースに独自の餌を作って、現在にいたっています。

また、ビタミンコントロールも欠かせません。うちでは子牛を買ってきて育てて出荷しているのですが、予防注射をする時にビタミン剤も一緒に注入します。ビタミン欠乏は牛の健康上良くないので、その後も状態を見ながらビタミン剤を追加しています。

牛は繊細な生き物ですから、育つ環境には細心の注意を払っています。例えば部屋もそうですね。仕上げのころになると同じ部屋に2頭入れます。ツノを切ると大人しくなるからと、子牛の時に切ってしまう農場もあるんですがうちでは成長の目安にもなるので切りません。そうすると気が合わない牛をツノで突いたりしますから、相性の良し悪しは十分注意をしなければなりません。

良い牛を育てるためには、市で良い子牛を見極めて買うことが大切です。触られてビクッと後退りするような牛は神経質で大きくなりません。温和な性格の牛はよく寝ますしよく食べ、大きく育ちます。あとは血統を見て、大体どれくらい大きくなるのかを予測して買い付けます。

良い牛を育てるには、毎日の健康管理が最も大事です。手をかけた牛が、A5ランクの評価を受けることが私の大きな喜びです。

大好きな牛に触れられるこの仕事が好き

松木 遥香さん

牛の可愛さに目覚めたのは、農業高校時代です。その後、農業大学の肉用牛科に進学して、卒業後にご縁があってこの牧場に来ました。

牛が大好きなので、洋服や髪が汚れても全然気になりません。ちょっと悔しいのは、私の身長が低いので牛の背中の汚れを払ってやるのが難しいことです。

牛は手をかけて育てたから良い成績の肉になるかと言えばそうでもなくて、かといって手をかけなければ適当な牛に育ちます。育ててみないとわからないところが、この仕事の深さだと思います。

柳田畜産

愛情を注いで、手塩にかけて牛を育てています

柳田 実義さん

父の代からですので柳田畜産の牛飼いの歴史は50数年ほどになります。当時は20頭ぐらいでしたが、後を継いでから徐々に牛を増やして、現在は子牛を含めて300頭ぐらいの規模で畜産を営んでいます。情熱牛グループに入ったのは、野崎熊男さん(野崎畜産先代社長)が声をかけてくれたのがきっかけでした。

牛飼いをしていて辛いと思ったことはあまりないのですが、子どもたちがまだ小さかったころ、動物園や遊園地に連れて行きたくて、真っ暗なうちに起きて牛の世話をしましたね。それがまあ苦労と言えばそうだったかもしれません。長男と長女も、すっかり大人になって今では仕事でも大きな戦力です。

牛飼いに必要なのは、牛への愛情と管理能力だと思っています。与える餌を管理して、健康に育つよう方時も目を離しません。うちは子牛を産ませて育てているので、特に冬場は風邪をひかないように注意深く見守っています。昔は、牛の出産時には四六時中ひっきりなしに牛舎に足を運んで様子を見ていました。今は母牛にセンサーを入れているので、出産の時間が正確にわかります。子牛の出荷も、高速道路ができたので市に行く時間が半分近く短縮されましたし、ずいぶん楽になりました。

牛は育つ環境が一番大事です。ゆったりした気分でもりもり食べて病気しないような環境を整えてやる。良い霜降りの肉ができるように、これからも牛たちに愛情を注いでいきたいです。

八重尾畜産

AIを駆使して牛の健康を見守ります

八重尾 均さん

畜産業は私で3代目になります。後を継いだのは1989年で、当時は100頭ほどの牛がいました。そこからコツコツと数を増やし、現在は母牛が100頭、肉牛が300頭、実家にも親牛が70頭います。

うちの特徴は、母牛が多いことです。健康な子牛を産んで、良いミルクを出すために、餌には気を使います。母牛には、自分たちが畑や田んぼで収穫した牧草を食べさせています。牧草の種を蒔いて育てるのは、機械もたくさん必要ですし手間がかかります。

子牛は血統もありますが、育てる環境もその後の生育に大きく影響します。母牛が子牛の面倒を見ないこともありますので、生後1週間を過ぎたころから別の部屋で私たちがミルクを飲ませて育てます。

何より牛がリラックスして健康でいることが大事ですので、常に注意して観察しています。目が離せない仕事ですが、近年は畜産にもAI化が進んで牛の健康状態の把握がずいぶん楽になりました。牛の首輪につけたタグで、採食、飲水、反芻、起立、横臥、静止などの牛の動きを24時間、365日観察して、異常があればスマホに呼び出しが入るんです。母牛は尻尾につけたセンサーでほぼ正確な出産時期がわかります。

ITにできることは任せて、人間にしかしてやれないことにより力を注ぐ。
愛情たっぷりに良質な牛を育ててやりたいと思っています。

牛の気持ちに寄り添って育てています

八重尾 征勇さん

いったん就職して家を出たのですが、父(均さん)の仕事を継ぐために戻りました。

自分が手をかけた分、良い牛に育ってくれるところがこの仕事の面白さです。もちろん、難しさもあります。牛は当然ながら言葉が通じません。だから病気になっていないか、どうして欲しいのか、どうやったらストレスを感じないのか、いつも考えています。結局人間と同じですよね、気持ちの悪いことはストレスになります。

ハエも嫌でしょうし、濡れている床は気持ちが悪いでしょうし。それに気づいて早く対処してあげるのが私たちの仕事です。餌をよく食べてよく寝て大きくなって、皆さんが喜んでくれるようないい牛をこれからも全力で育てていきたいです。

石澤畜産

牛の気持ちを感じながら大切に育てています

石澤 豊樹さん

明治初期の先祖がこの土地で馬主を始めました。私は8代目で、畜産業を営んでからは3代目になります。

納得できる牛を育てるためには色々な条件がありますが、まずスタートは子牛の見極めが重要です。血統もさることながら「これぞ」という子牛は、ひと目見てわかりますね。よく育ちそうな牛は、お尻がどっしりしていて骨格がしっかりしている。あとは何と言うか「よい牛に育つ」と感じさせる独特の雰囲気を持っています。

子牛を買う時も飼育する時もそうですが、牛が訴える何かを察することが大切なのかなと思います。目と目を合わせれば、何が言いたいのかわかる。どんよりしていたら熱がある、具合が悪い。日ごろからよく観察して、牛がして欲しいと思っていることをできるだけ叶えてやります。

他には、ストレスをかけないこと。うちの牧場では牛に鼻輪はつけていません。鼻輪がどこかに引っかかって痛い目をさせたら可哀想ですからね。

大事に育てた牛がどんな情熱牛になったのか気になるところですが、そこは「薩摩の久保」の大山社長が評価してくれています。最後に「うまかぞ」と言われるのは、牛飼い冥利に尽きますね。

山崎畜産

育てた牛の評価を知り、次のステップへ

山崎 英二さん

JAで畜産の外回りの仕事をしていた24歳の時、畜産をしていた父親が怪我をしたので急遽後を継ぐことになりました。以来、30年畜産の仕事をしています。牛に関する知識はそこそこありましたが、やはり自分で育てるとなると難しいことも多いです。

子牛の見極め方は、野崎畜産の先代社長の野崎熊男さんに教えてもらいました。熊男さんは、鹿児島県の牛飼いたちに一目置かれている有名な人でした。牛に関しては確かで鋭い目を持った人で私が市で買おうとしている子牛をひと目見て「わ、今の牛は大丈夫か!」「足は大丈夫か!」と、よく注意されました。それが今となっては自分の力になっていますし、教えてくださったことを心から感謝しています。

情熱牛(当時は「のざき牛」)グループには20年ほど前に参加しました。誘ってくださったのは嬉しかったのですが、野崎熊男さんの名を汚さない仕事をしなければ、というプレッシャーはありました。牛を買ってくれる大山社長には何度も「本当に僕の牛でいいんですか?」と聞きました。そこから「薩摩の久保」の大山社長との付き合いが始まりました。

一般的に自分の育てた牛はどこの誰が食べているのか、どんな評価なのかわかりません。しかし、情熱牛グループでは、大山社長がお客さまの声を代弁してくれます。私も育てた牛を食べることができます。

大山社長に「この牛いいね」と言われると嬉しいですし、脂の甘みや肉質の硬さなどを指摘された場合は、次の課題にもなります。今後も美味しいと言われる情熱牛作りに挑戦していきます。

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